大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和61年(行コ)1号 判決

岡山県笠岡市五番町五番四八号

控訴人(付帯被控訴人)

笠岡税務署長 宮本聡

右指定代理人

見越正秋

下畠康宏

北村勲

小坂田英一

宮本直文

河田俊夫

木村守孝

岡山県笠岡市北木島町九六二八番地

被控訴人(付帯控訴人)

赤瀬甫

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

右当事者間の課税処分取消請求控訴、同付帯控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  本件控訴に基づき、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の右部分に関する請求を棄却する。

三  本件付帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用(付帯控訴費用を含む)は、第一、二審を通じて被控訴人(付帯控訴人)の負担とする。

事実

一  控訴人(付帯被控訴人、以下「控訴人」という。)代理人は、本件控訴として「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。右部分につき被控訴人(付帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、付帯控訴につき控訴棄却の判決を求め、被控訴人代理人は、本件控訴につき控訴棄却の判決、付帯控訴として、「一、原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。二、控訴人が被控訴人に対し、いずれも昭和53年3月6日付でした次の課税処分を取り消す。1、被控訴人の昭和四九年分所得税の更正処分(但し、裁決による一部取消後のもの)のうち、総所得金額五三万五〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、裁決による一部取消後のもの)。2、被控訴人の昭和五〇年分所得税の更正処分のうち総所得金額二一八万六五〇〇〇円を超える部分及び無申告加算税の賦課決定処分。三、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事業者双方の主張は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであり(但し、原判決三枚目裏五行目「国税不服審判署長」の前に「広島」を、七枚目裏一二行目「憲法三一条、」の次に「二九条一項、」を各加え、八枚目裏初行、六行目、九枚目表初行各「総本舗」を「総本店」と、一二枚目表九行目、一三枚目表初行の各「繰り返えし」をいずれも「繰り返し」と改める。)、証拠の関係は、本件記録中の第一、二審書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

(控訴人の主張)

一  原判決の認定の誤りについて

本件更正処分の主たる争点は、被控訴人の売上金額のうち、奥田に対する売上として控訴人が認定した金額の是否にある。

原審は、控訴人が被控訴人の昭和五一年分の売上と認定した金額のうち、奥田に対する売上代金の入金と推認した本判決別表(一)の四通の手形(以下「本件手形」という。)について、右手形はいずれも振出日の記載がないので、手形記号番号D四八九九七(番号「四五」)、E〇七二〇一(番号「四六」)、F〇二九七七(番号「四七」)、E〇七二〇五(番号「五〇」)、E〇七二一〇(番号「五二」)の五通の手形(以下「基準手形」という。)のサイトが五か月であることなどから、本件手形の手形記号番号の順序、間隔等から、これらが昭和五〇年中に振り出されたものと認定した上、昭和五一年分の被控訴人の事業所得の金額につき、控訴人の主張を排斥し、更正処分を取り消す判決をしたものである。

しかしながら、原審判決の右認定には、重大な事実誤認がある。

1  手形の振出日と手形記号番号との関連性について

奥田が被控訴人に振り出した手形を一覧表にまとめると、本判決別表(二)「奥田満の手形振出状況表」のとおりとなるが、これによると、手形記号番号と振出日の順序が逆転しているものが多く見受けられ、奥田が一般的に手形を手形記号番号順に振り出していたとは認め難い。

そうだとすれば、本件の場合、手形の振出日と手形の記号番号の順序との相関性は薄く、手形の振出日を推定することの根拠にはならないものというべきである。

2  手形サイトについて

原判決が本件手形サイトの認定に当たり用いた基準手形は、いずれも金融手形であるのに対し、本件手形は売上代金を回収した商業手形であり、これら両者はおのずから性格が異なるものである。

右基準手形が、本件手形の手形サイトを推定する基準として合理的か否かについて考察すると、基準手形はその発行期間が昭和五一年四月三〇日から同年七月三一日までの短期間である上、手形の発行時期を推認するにしても、本件手形の支払期日(昭和五一年二月二日、同年同月二八日、同年五月一五日)と基準手形の支払期日(昭和五一年九月三〇日、同年一〇月一〇日、同年一二月三一日)が離れすぎており、到底手形発行日の基準としての合理性があるとはいえない。

また、奥田が振り出した手形サイトについて一覧表にまとめると、本判決別表(三)「奥田満振出手形等一覧表」のとおりとなるが、これによると昭和五〇年一月から同五一年六月までの一八か月間に振り出した手形のサイトからは、商業手形が平均二・三か月、金融手形が平均三・三か月となっており、これを昭和五〇年一〇月から同五一年六月までの九か月間に振り出した手形に限ってみとる、その手形サイトは、商業手形が平均二・三か月、金融手形が平均四・四か月となっており、商業手形と金融手形とは、手形サイトの点で顕著な違いのあることが明らかである。

そして、本件手形がすべて商業手形であることから、商業手形の平均手形サイト二・三か月を採用した場合、そのうち六三、六四の手形の振出日は、支払期日の昭和五一年五月一五日から逆算して昭和五一年二月二八日ころとなり、同手形は、昭和五一年二月分の売上に対応する入金分と推認することができるのである。

さらに、本件手形の支払期日の直後に振り出された番号五三の商業手形と対比した場合でも、その手形サイトは三か月であるから、六三、六四の手形の支払期日から三か月を逆算した昭和五一年二月一五日が振出日となり、同手形は、昭和五一年一月分の売上に対応する入金分と推認すべきことになる。以上によれば、少なくとも右両手形は昭和五一年分の売上に対応する入金分と認定するのか合理的である。

3  原判決の認定した事業所得金額の不合理性について

控訴人は、被控訴人の昭和五一年分の事業所得の金額を受取手形等から売上金額を推計するなどして四一〇万四〇二二円と算定し、さらに、資産負債増減法によってこの算定した事業所得金額の正当性を主張、立証していたところ、原判決は、損益計算法によってのみ判断し、本件手形サイトの期間を五か月と推認した結果、昭和五一年分の事業所得の金額を一三七万三二〇六円と認定したものであるが、これは、被控訴人の申告額一七九万三一〇〇円をも下回る金額であり余りにも不合理である。

また、原判決の認定にかかる各係争年分の事業所得を比較すると、本判決別表(四)のとおり、年度間の変動が異常に大きく、昭和五一年分の被告訴人の事業形態について、その前二年間とさしたる変化が認められないにもかかわらず、昭和五一年分の事業所得額は、前二年分の四分の一以下となっているが、この点も極めて不自然不合理といわざるを得ない。

4  資産取得及び生産費について

原判決が認定した被控訴人の昭和五一年分の事業所得金額は、以下のとおり被控訴人の資産取得の事実や家族の生活費等の面から総合的に判断すると、不合理であり、容認できない。

(一)  被控訴人は、昭和五〇年終りころから、翌五一年にかけて訴外赤瀬昌彦(以下「昌彦」という。)名義の家屋(取得費約七四〇万円)を新築するなど、多額の資産取得をしている。

この家屋の取得金額の一部は、山陽相互銀行笠岡支店からの借入金三〇〇万円によるものであるが、当然、返済計画を立てた上でのことであり、現実にその後毎月元金一〇万円の返済とその年間利息約二三万円の支払いをしていること。

(二)  被控訴人は、昌彦が昭和五一年一〇月三日山陽ハイツにおいて、結婚式を挙げた際、その関連費用として、約五〇万円支出していること。

(三)  被控訴人の昭和五一年中の生活費は、最低約四〇〇万円必要とみられること。

以上述べたとおり、原判決の事業所得金額一三七万三二〇六円によっては、右(一)ないし(三)の生活費等約一一〇三万円を支出することは不可能かつ、不自然といわなければならない。

二  控訴審における新たな主張

1  昭和五一年分の売上金額の追加について

被控訴人の昭和五一年分の奥田に対する売上金額の算定について、従前の主張に加え次のとおり主張する。

(一)  譲渡手形の売上加算について

被控訴人は奥田が振り出した本判決別表(五)の約束手形四通を売上代金として受け取った後、これを昌彦の家屋新築代金の支払に当てるため裏書き譲渡しているので、右手形四口合計一三四万九六〇〇円を昭和五一年分の奥田に対する売上金額に加算する。

(二)  小切手の売上加算について

被控訴人は本判決別表(六)のとおり、その振出人が仕入代金の支払のために振り出した小切手二通合計八万円を受け取っているので、それぞれ振出人に対する売上金額に加算する。

(三)  資金繰りの面からの売上の追加について

控訴人が、被控訴人の昭和五一年分の売上について、これを資金面から調査したところ、以下に述べるとおり事業経費及び生活費等の資金源泉のない月があるのが判明したので、従前金融手形とみなしていた奥田満振出の本判決別表(七)の手形のうち二六五万円を売上金額に加算する。

控訴人が、控訴審において主張する被控訴人の昭和五一年分の売上一三八〇万一八二〇円(後述(五)の本判決別表(九)参照)から算出した事業経費及び生活費等の推計による資金必要額は、本判決別表(八)「概算事業経費及び生活費」に記載のとおり一か月で約一〇〇万円になるところ、被控訴人が使用している山陽相互銀行笠岡支店の赤瀬甫名義の当座預金及び普通預金を基に「資金繰り検討表」を作成して検討したところ、昭和五一年三月分、五月分、一〇月分及び一一月分にあっては毎月の事業経費及び生活費等に充てられる現金等が一〇〇万円を下回ることが判明した。

しかして、被控訴人らの生活費の資金源泉は、売上代金の回収によるものが主体と認められるから、前記記載の手形金額二六五万円は右年月分の生活費に費消されているものと推認され、結局この金額は売上金と認定すべきことになる。

(四)  以上の次第であるから、昭和五一年分の、奥田に対する売上金額は、原判決の認定した売上金額に(一)ないし(三)及び少なくとも前記六三、六四の手形金の合計額六二七万四六〇〇円を加算した一二七七万三〇〇〇円となり、また、株式会社谷川石材総本店に対する売上金額は、原判決の売上金額四万四〇〇〇円に右(二)の金額三万円を加算した七万四〇〇〇円となる。

(五)  昭和五一年分の総売上金額について

以上の控訴人の主張に基づき、被控訴人の昭和五一年分の売上先別の総売上金額を整理すれば本判決別表(九)のとおりであって、総売上金額は一三八〇万一八二〇円となる。

2  昭和五一年分の支払利息の減算について

被控訴人は、昭和五〇年から昭和五一年にかけて、昌彦名義の木造瓦葺二階建居宅床面積一一六・五五平方メートルの家屋を約七四〇万円で新築しているが、その取得資金の一部は、昭和五〇年一二月二九日に山陽相互銀行笠岡支店から控訴人が融資を受けた三〇〇万円の借入金から充てられており、右借入金は事業のために使用されたものでないことが判明した。

したがって、当該借入金に係る支払利息二三万一〇二三円は、被控訴人の事業所得の金額の計算上必要経費とはならないので、支払利息から減算すべきことになる。

3  昭和五一年分の事業所得の金額について

右1で述べた昭和五一年分の総売上金額一三八〇万一八二〇円を基に、争いのない同業者の特別経費控除前の所得率を乗じた特別経費控除前の算出所得金額から、右2で述べた支払利息二三万一〇二三円を減算した後の特別経費一九一万四一五九円及び事業専従者控除額八〇万円をそれぞれ控除した事業所得の金額は五二三万五六七九円となるから、この範囲内でなされた更正処分(裁決で一部取消後のもの、以下同じ。)は適法である。

なお、昭和五一年分における資産、負債の状況を調査した結果は、本判決別表(十)「資産負債調」のとおりであり、これによると、原処分の所得金額を上回る純資産の増加(生活費として支出された金額を含む。)が認められ、この点からも控訴人のなした更正処分は適法であるということができる。

(控訴人の主張に対する被控訴人の答弁及び主張)

一1  手形振出日と手形番号の関連性の主張について

控訴人が主張する右両者の逆転は、せいぜい振出日が一か月異なる手形の間に認められるところ、本件手形を手形番号三五、三九、四〇の手形と対比してみると、本件手形は右三五の手形(振出日 昭和五〇年一〇月三一日)と四〇の手形(振出日 同五一年一月二日)の間に振り出されたものとみるのが相当である。

2  手形サイトの主張について

控訴人の右主張は争う。被控訴人は、奥田満との間において、金融手形と商業手形とを区別して手形サイトを異にする必要はなく、むしろ、融通手形を振り出していることを銀行に知られるのは不都合であったから、ことさら右のような区別は避けていた。

なお、原判決は、基準手形のみでなく、手形番号三五、四〇の手形サイト(五か月)も判断の資料としているものであるから。

3  被控訴人の事業所得金額、資産取得及び生活費の主張について

右主張は争う。

二  昭和五一年分売上金額の追加主張について

1  譲渡手形の売上加算について

奥田振出の四通の手形は、被控訴人が四男昌彦名義の家屋新築代金の支払のため大工の奥野博司を通じて譲渡先に渡ったものである。四通の手形はいずれも奥田から被控訴人宛資金返済のために振出されたものである。その根拠は、手形の金額が大工への支払金額(大工からさらに取引先への支払額)に合わせて振出されていることである。控訴人は、このような振出は売上代金の場合でもありうると主張するが、売上代金の支払であれば、わざわざ大工への支払額に合わせる必要はなく、被控訴人としては売上代金相当額の手形の振出を受けたうえ、これを満期に取立てたうえ現金で支払うか、割引を受けて現金で支払い、残余は留保するなどの措置をとるのが常識的である。

これらの手形は、控訴人は従前は金融手形とみなしていたものであるところ 、これをあえて売上手形と変更する新たな根拠は何もない。

2  小切手の売上加算について

谷川石材の小切手は売上と認める。奥田の小切手は貸金の返済分である。

控訴人は預金口座の残高を指摘するが、むしろ昭和五一年八月三〇日では、わずか八四一七円、同年一一月一日では七万三六五〇円となっており、右小切手振出の前後において被控訴人が金銭的に逼迫していたことが明らかである。奥田から売上代金の支払に小切手が使われたことはなく、本件小切手は被控訴人が生活費のために急を要し、貸金返済分として奥田から振出されたものである。

3  貸金繰り面からの売上加算について

控訴人が主張する資金必要額月一〇〇万円であるが、これは控訴人が主張する昭和五一年分の売上高一三四〇万一八二〇円を前提に算出されたものである。被控訴人主張による同年売上高は五八九万二二二〇円である。これをもとに控訴人主張のごとく算出をするなら資金必要額は大幅にさがり資金不足は生じない。控訴人が算出した必要額では資金不足を生ずるというのは、それだけ控訴人が売上金額を過大に見積もった結果である。

三  現金貸付についての被控訴人の主張

控訴人は、本件の三年前に被控訴人が現金貸付(新規及び再度のもの)をした事実はないとするが、被控訴人と奥田との間の金融手形授受の回数と額からすれば、現金貸付とそれに対する返済手形が循環していたとみるべきであり、被控訴人は、右係争年中に奥田に対し約三九〇万円の貸金残を有していたのである。もし、これがないとすれば、金融手形とみなされた手形金額の合計は莫大となり、到底かかる多額の貸金が存在していたとは考えられないところである。

理由

一  本件各処分の経緯及び手続上の違法の主張につき、原判決がその理由一、二において説示するところは、次のとおり訂正するほか、当裁判所の判断と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一四枚目表初行「証人」を「原審証人」と、二行目「同赤瀬万年」を原審及び当審証人赤瀬萬年「以下、名を「万年」と表記する。)」と各改め、四行目「原告」の次に「(白色申告者)」と加え、末行「全て」を「すべて」と改める。

2  同一五枚目表一二行目「同年」を「昭和五二年」と改める。

3  同一八枚目表六行目「過税」を「課税」と改める。

二  被控訴人の総所得額等について、原判決がその理由の三、四において説示するところは、次のとおり付加、訂正、削除するほか、当裁判所の判断と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一八枚目裏八行目「特別経費」の次に「(但し、控訴人は、右別表六記載〈6〉の支払利子二三万一〇二三円については主張を撤回した。)」を加える。

2  同一九枚目表一一、一二行目「原告に対する売上」を「被控訴人からの買受」と改め、末行「入金であり、」の次に「被控訴人に」を、同裏三行目「という。)」の次に「の割引による貸付」を加える。

3  同二一枚目表八行目「証人」を「原審証人」と、九行目「同」を「原審及び当審証人」と各改める。

4  同二六枚目表六、七行目「前定」を「前提」と改め、同裏三行目「第三五号証、」の次に「当審証人村中豊の証言により真正に成立したものと認められる乙第四七号証、」を加え、五行目「二七」を「二六ないし第二九」と、同行「証人」から「及び」までを「原審証人富山久、当審証人村中豊、原審及び当審証人赤瀬万年の各証言ならびに」と各改める。

5  同二七枚目裏一二行目「いること」の次に「、また、同五一年一〇月三日には倉敷市内の結婚式場で昌彦の結婚式を挙げており、その費用に相当額の出費をしていること」を、同二八枚目表四行目「二一二万〇六四〇円」の次に「(そのうち、控訴人が主張を改めた前記支払利子分の二三万一〇二三円が特別経費といえないとしても、被控訴人が同額の出費を要したことに変わりはない。)」を各加える。

6  同二九枚目裏八行目の次に行をかえて「当裁判所において右各証拠関係を検討した結果もまた同様である。」を加え、同三二枚目表初行「同年」を「昭和四九年」と、同裏一一行目「相当分の」を「相当分と想定した」と各改める。

7  同三三枚目裏二行目の次に以下のとおり加え、七行目「四通」を「60、62の二通」と改め、九行目「手形」の次に「、小切手」を加える。

〈省略〉

8  同三四枚目表四行目「別表」から八行目末尾までを「そのうちの一部については、右対応がないとはいえないものがあるが、その大部分について貸付資金の出所が明らかでなく、この点に関する被控訴人の主張及び立証が具体性を欠いていることと相まって、それらの現金貸付の存在がはなはだ疑わしい。」と改める。

9  同三五枚目表一二行目「原告」を「奥田」と、同三七枚目表三、四行目及び同裏九行目各「証人」を「原審及び当審証人」と各改め、同三八枚目表初行「当審では、」を削る。

10  同三九枚目裏六行目の次に開業して以下のとおり加える。

「これについて、控訴人は、奥田振出手形には手形記号番号と振出日の順序が逆転しているものが多く、右62の手形もこれに該当し、昭和五一年分の支払手形であると主張するところ、原判決添付別表七ないし九によれば、右主張の逆転現象は認められるものの、他方、商業手形(金融手形の趣旨を併有するものを含む。)とみるべき同別表記載4ないし8、10、26、28、30、33、36、44、53、54、58ないし60の手形サイトは平均して二か月を超えることが認められ、これらの事実を総合勘案すると62の手形の振出時期は右のように推認するのが相当である。」

11  同三九枚目裏一二行目冒頭の「c〕を「(ウ)次に、」と末行「前記」から四〇枚目表初行「よれば」までを「その手形番号からすると」と、四〇枚目表五行目「と推定される」から同裏初行「できない。」までを「であるかのようであるが、当審証人村中豊の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三七ないし第四〇号証に弁論の全趣旨を総合すると、奥田は、被控訴人宛に手形番号D四八九八二、D四八九八三の商業手形を振り出しているが、その支払期日は、前者が昭和五一年三月三〇日、後者が同年二月一七日であって、その間に前記のような逆転現象が認められ、この事実と右35、40の手形番号とを対比してみると、本件係争の63、64の手形は、いずれも昭和五一年度に振り出された可能性が強いというべきである。

そして、以上の認定事実をもとに、昭和五〇年一〇月から、同五一年六月までの奥田振出手形のサイトを商業手形と金融手形とで対比してみると、前者が二か月強、後者が四か月強であって、その間に顕著な差が認められ、右係争手形がいずれも商業手形であって、支払期日が昭和五一年五月一五日であることからすると、その振出日は同年一月以降と推定される。これらの点を総合すると、右係争手形は、昭和五一年分の売上げに関し同年中に振出されたものと認めるのが相当である。当審証人赤瀬万年は、手形サイトにつき右のような差違は設けていなかった旨証言するが、措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」と各改める。

12  同四〇枚目裏六行目「D四八九七六」から七行目「64)」までを「(61、62)」と改める。

13  同四一枚目表七行目「五六五万九四〇〇円」を「七八八万四四〇〇円」と改め、同行の次に改行して以下のとおり加える。

「なお、控訴人は、前同別表九記載番号43、46の手形金及び同55ないし58の手形金の一部、合計二六五万円は、被控訴人の奥田に対する昭和五一年度の売上げとみるべきであると主張するが、その推論の前提となる諸事実は未だ不確定要素が多く、その結論を肯認するには十分でない。」

14  右同枚目裏一二行目「第一四号証の一・二」の次に「当審証人村中豊の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四一号証、」を、同四二枚目表初行「乙第三四」の次に「、第三七ないし第四〇」を各加え、二行目「とおり」から三行目「受けた」までを「手形、小切手及び控訴人が当審において追加主張する四通の手形(D四八九八二、四八九八三、四八九八五、四八九九(そのうち、四八九八五は振出日が白地であるが手形番号の関係からして昭和五一年二月一七日から同年七月一〇日の間に振り出したものと認められる。)額面合計一三四万九六〇〇円)及び小切手のうち小切手番号G〇八一八六(額面五万円)のものを被控訴人から交付譲渡を受け、これを」と改め、七、八行目「被告主張の売上金額欄記載の」を削り、九行目の末尾に「当審証人赤瀬万年は、右追加主張の手形、小切手が売上げ代金の支払いであることを否定する証言をするが措置できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」を加え、一二行目「八〇万五〇〇〇円」を「二二〇万四六〇〇円」と改める。

15  同四二枚目裏四行目「六四九万八四〇〇円」を「一〇一二万三〇〇〇円」と改め、六行目「売上金額」の次に「及び当審において争いのない谷川石材総本店に対する昭和五一年分の三万円の追加売上げ(記号番号0〇五六五九の小切手による支払い)」を加え、一〇行目「七四九万七二二〇円」を「一一一五万一八二〇円」と改める。

16  同四三枚目表末行「争っていない。」を「争っていないが、控訴人は、右同表六中の山陽相互銀行笠岡支店に対する支払利子二三万一〇二三円は、昌彦の家屋新築のための借入金三〇〇万円の利子であるから、被控訴人の事業経費ではないと主張するところ、昭和五〇年終りから五一年にかけて昌彦の家屋が七〇〇万円程度(当審証人赤瀬万年の証言によると一〇〇〇万円前後)で新築されたこと、昭和五〇年一二月に右銀行から被控訴人名義で三〇〇万円、昌彦名義で二〇〇万円の借入れがされていることは前記認定のとおりであり、当審証人赤瀬万年の証言によれば、右資金につき住宅金融公庫からの借入れができず資金繰りは必ずしも容易でなかったこと、その相当部分は被控訴人が援助したものであることが認められ、一方、昭和五〇年一二月頃に被控訴人において事業用に右程度の借入れをすべき必要があったことを窺わせる証拠はない。そうすると、右三〇〇万円は昌彦の家屋新築のための借入れと推認するのが相当であり、昭和五一年中のその支払利子二三万一〇二三円は被控訴人の事業所得についての特別経費とは認められない。」と改める。

17  同四三枚目裏一一行目「一三七万三二〇六円」を「三七〇万九二七九円」と改める。

18  同四三枚目裏末行から同四四枚目表一二行目までを次のとおり改める。

「従って、昭和四九年分ないし五一年分の更正処分は右認定の総所得金額の範囲内でなされたものであるから、被控訴人の、総所得金額を過大に認定した違法がある旨の主張は理由がない。

以上のとおりであって、本件各更正処分及び賦課決定処分は適法である。」

19  原判決添付別表一一「昭和五一年分事業所得算出経過表(当裁判所認定分)」中、売上金額「七、四九七、二二〇円」を「一一、一五一、八二〇円」と、特別経費控除前の算出所得金額「四、三一八、三九八円」を「六、四二三、四四八円」と、特別経費「二、一四五、一九二円」を「一、九一四、一六九円」と、「借入金利子・割引料 三四〇、六四〇円」を「割引料 一〇九、六一七円」と各改め、支払利子(山陽相互銀行笠岡支店二三一、〇二三円」を削り、特別経費控除後の算出所得金額「二、一七三、二〇六円」を「四、五〇九、二七九円」と、事業所得金額「一、三七三、二〇六円」を三、七〇九、二七九円」と各改める。

三  よって、本件控除に基づき、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消して、被控訴人の請求を棄却するとともに、本件付帯控訴を棄却し、訴訟費用(付帯控訴費用を含む。)の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山健三 裁判官 相良甲子彦 裁判官 廣田聰)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

奥田満の手形振出状況表

〈省略〉

別表(三)

奥田満振出手形等一覧表

〈省略〉

別表(四)

〈省略〉

右表の原判決欄の五〇年分の損益欄のかっこ書の金額は、本件手形四七四万一〇〇〇円を加算した後の金額である。

また、四九ないし五一年分の資産化欄のかっこ書の金額は、控訴人主張額を原判決内容に修正した後の金額である。

別表(五)

〈省略〉

別表(六)

〈省略〉

別表(七)

〈省略〉

別表(八)

概算事業経費及び生活費

〈省略〉

別表(九)

〈省略〉

別表(十)

資産負債調(資産増減法による所得金額の計算)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例